2001年宇宙の旅

(1968年アメリカ映画)


この作品は私にとって映画№1の座を40年の長きに亙って保ち続けている。

 

この映画から私が受けたメッセージのうち大きなものをあげてみた。

想像は創造である。知は力なり。人類はどう進化すべきか。生存することと存在すること。意識と物理的力。

知性は孤独に耐えられない。


あらすじbyぐっちー

この映画を次の5つに分かれている。時間はおおよそのめやす。


1.プロローグ 0:00:00~0:04:35 

2.人類の夜明け 0:04:35~0:19:50 

3.TMA1 0:19:50~0:54:40

4.木星計画 0:54:40~1:57:10

5.スターゲイト 1:57:10~2:18:40


このうち、4についてはネット上もそのほかにもいろいろとストーリーが語られており、映画にもセリフがあるので見ていて少しはわかる。この部分は、ウィキペディア記載のあらすじを転載。

3も、セリフがあるので、ウィキペディア記載のあらすじ+補足とする。

2と4は、映画制作段階でつけるはずだった説明ナレーションをカットしたこともあり、説明を要するため、やや詳しく。


 このカットもあり、原作者アーサー・C・クラークはこう豪語する。

「もしもこの映画が一度見ただけで理解されたのなら  われわれの意図は失敗したことになる。」



1.プロローグ

 

 何も映されていない画面に、 ジェルジ・リゲティ作曲のアトモスフェールが流れ3分後MGMの社名ロゴ。

 

 リヒャルト・シュトラウスが1896年に作曲した交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』が厳かに奏ではじめられる。

 漆黒の画面に光点が現れ、ほぼ同時に光点の下に沿うように光る円弧の上部が見える。ああ、どこかの惑星の向こうから恒星が昇りはじめたんだ。恒星の上昇につれ、恒星の光を反射する円弧は下に延び、やがて半円の円弧になる。円弧は小さいので惑星ではなく衛星かもしれない。「ツァラトゥストラ」のドラムが響

く。円弧の幅は大気の層だろうが、やや薄い。恒星が昇りきり、円弧に接する真円になったときタイトルが現れる。

2001:A SPACE ODYSSEY

 

2.人類の夜明け

 

 黎明。この言葉を聞くとこの冒頭のシーンが浮かんでくる。画面下2/3は漆黒の大地、右手に低いなだらかな丘、頂上まで見えているかは不明。朝焼けが始まった空。やや薄い雲が右手の丘のそばにかかる。何百万年か昔。

 

 どこかの砂漠のはずれ、岩ばかりに見える低い丘、ツチブタ(?)の群れと一緒にいる大型の猿の群れ。猿はまだ二足歩行ではなく、手を補助的に使って歩く。

 ツチブタは家畜ではない。それでも一緒にいるということは、猿から捕食されないということ。この猿は植物やせいぜい屍肉が常食なんだろう。それとも一緒にいても安全なほど、この猿がのろまで非力なのか。

 小さな水飲み場を他の群れと取り合い、大型の肉食動物におびえて生きる。

 

 ある朝、群れの何頭かは不思議な胸騒ぎを覚え、あたりを見渡し、今まで見たこともない、不思議な岩を見つけた。胸騒ぎはその岩の所為だと、何故かわかったが、どうして胸騒ぎが続いているのかはわからない。

 

 その岩、単板、モノリス、は数学的知性のあるものなら、少し調べればわかる、1:4:9、つまり1×1:2×2:3×3という、明らかに知性あるものが作った形をしていた。現在の我々なら、ユークリッド幾何学が通じる文化で作られたものと判断するだろう。しかし、猿にとっては、割れ口がまっすぐで平らなところの多い、ちょっと変な岩にしかすぎない。

 

 頭の中で変な音が鳴り響いているような胸騒ぎは続くが、モノリスに近づいた猿たちは何故かモノリスから離れられなくなっていた。猿たちの多くはモノリスに触れてみた。そのときモノリスに太陽光が当たった。猿たちは一瞬、何かを見た。しかし何かわからず、すぐに忘れ去った。

 

 まもなく、モノリスは最初から存在しなかったように姿を消し、猿たちももう思い出すこともない。

 

 ある日、なんとなくツチブタの骨を見ていた1匹の猿の、頭の中に不思議なものが見えた。夜、眠ったとき見えるような、本当にはないものだった。手で骨を持ち振り回すと、骨は手の続きのようになり、力強くツチブタを倒す。


 モノリスは、まだ言葉を持たない猿たちにイメージを与えた。想像することを教えた。想像は創造だった。

 

 猿は、いま見えたことをやってみた。うまくいった。仲間も続く。これで食べ物を得ることが、いくぶん楽になる。道具の始まり。大きく一歩、直立猿人へと踏み出した。生きるために得た道具を、おなじ猿どうしの争いで相手を殺すことにも使いながら。

 

3.TMA1

 

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 (ウィキペディアより)

 ヒトザルは、水場争いに勝利する。歓びのあまり、骨を空に放り上げると、これが最新の宇宙船に変る(人類史を俯瞰するモンタージュとされる)。

月に人類が住むようになった時代。アメリカ合衆国宇宙評議会のヘイウッド・フロイド博士は、月のティコクレーターで発掘された謎の物体「モノリス(TMA・1)」(「一枚岩」)を極秘に調査するため、月面クラビウス基地に向かう。調査中、400万年ぶりに太陽光を浴びたモノリスは強力な信号を木星(小説版では土星)に向けて発した。

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(補足)

 「美しく青きドナウ」が流れる中、地球から宇宙ステーション5に向かうオリオン3型宇宙機。回転する宇宙ステーションに同期して、ドッキング体制をとる。ワルツのように。

 このオリオン3型宇宙機内では乗客フロイド博士のペンが、無重力で浮いていたり、CAも床面吸着靴を履きながらも動きにくそうだったり、無重力状態の説明的映像もワルツに乗って流れる。1968年4月公開の映画だが、どうやって撮影したのか?ソ連の宇宙計画と競争するように立てられたアメリカのアポロ計画たが、この映画の公開と同じ年、1968年の10月にようやく、アポロ7号がアポロ計画初の有人飛行で地球周回。映画公開1年後の1969年7月アポロ11号が人類初の月面着陸に成功。 この映画が、それ以前に作られていたことはおどろくべきことである。なお、米ソ核戦争寸前のキューバ危機は1962年であり、それほど離れてはいない。

 

 宇宙ステーション5に着いたフロイド博士は、声紋識別を受ける。このときの、オペレーターの操作パネルには使用言語ボタンが6つ並んでいた。英語、オランダ語、ロシア語、フランス語、イタリア語、日本語である。日本人も母国語で声紋識別されるのだ。なんとなく嬉しい。

 

  テレビ電話が、最先端技術のように出てくるのは、隔世の感あり。やはり、携帯電話までには想像が及ばないか。HILTONの表示のあるロビー、ロシアの科学者・技術者と談笑。ロシア側は、月面のアメリカ管区で なんらかの謎が進行しているのではと探りを入れる。クラビウス基地の電話が10日にわたって故障で連絡が取れず、ロケットバスの緊急着陸も拒否された。人命に関わることで国際問題だ。クラビウス基地で未知の伝染病発生との情報もある、と。フロイド博士は自分は話せる立場ではないと答える。つまり否定しなかったのだ。

 

 宇宙ステーション5から月へと向かうアリエス1B型月シャトル、音楽はふたたび「美しく青きドナウ」。CAがもってくる宇宙食は、現代のエナジーチャージドリンクに似た流動食容器の小さめのものが、10種くらい並んでいるもの。各容器に短いストローが付随している。ここももちろん無重力で、無重力トイレも備え付けられている。(ライトスタッフを思い出す。)やがて月基地に到着、着陸ベイのドームが開き、ほぼ真球に近い形で、窓の位置を目とすれば、見ようによっては人の頭部のようにも見える月シャトルは、下部のがっしりした4脚で静かに着地する。

 

 クラビウス基地での会議で、フロイド博士は基地関係者の、秘密保持の徹底に謝意を述べ、伝染病などのデマ情報をわざと流したことを詫びる。基地を実質的に孤立状態にしてでも、守らねばならない情報があった。

 

 月面の磁場測定をやっていたアメリカチームは、クラビウス基地からはやや遠い、地球側の月面中央のやや南、巨大クレーター地方にあるティコという直径85キロの巨大クレーター付近に、非常に強い磁場を観測した。調査してみると、自然岩ととしては異様に直線的な稜線を持つ、物体の一部が地表に露出しており、磁場はそこから発生していた。その物体を掘り起こしてみると、人工的に作られたとしか思えない完全な直方体、厚さは40センチ弱、その厚さを1とすると、厚さ:横幅:高さが1:4:9の平たい板のようなものがでてきた。材質は、不明ながら、外見上は単一材質と思われるが、一部を削り取ることも割って調べることもできないほど堅く頑丈なもの、色は、光をすべて吸収し、まったく反射することがないことを主張するかのような漆黒。すぐ命名された名は、ティコ磁気異常1号(ycho Magnetic Anomaly 1)、略号TMA1である。

 

 掘り起こした科学者たちは、掘った地質を調べて見て驚いた。TMA1が埋められたのは少なくとも四百万年前とわかったからである。明らかに人工的なモノリス、だが人類と呼べるものの存在しない時代に埋められたもの。

 

 地球外知的生命体が存在し、それが地球近くで活動した最初の証拠が見つかったのだ。地球人類全体の大問題である。

 

 しかし、このことを公表するには、時期が問題だった。米ソ間の冷戦は、いつ熱戦になっても不思議でない状況が続き、宇宙ステーションや月面にも見えない国境線が引かれていて、些細なことが導火線にならぬよう慎重な対応が必要だった。


 公表するにしても、非常にショッキングな問題でもあり、その検証も行い、材質なども少しでも判明してからの方がよいと、極秘扱いがつづいているのである。

 

  月面は基本的に昼が15日つづいたあと夜が15日つづく。その繰り返しである。TMA1は、地球から直接望遠鏡で観察しづらい夜になって掘り出され、まもなく最初の夜が明けようとしていた。露出していた面も、直接太陽光が当たらない窪地にあったため、四百万年ぶりに、文字通り、日の目を見ようとしていた。


 フロイド博士は、簡易実験室付きムーンバスでティコに向かっていた。重力がある月面の空気のあるムーンバス内での宇宙食は、合成食ながら、ファストフード店でのランチを思わせる品揃えだ。博士たちがTMA1の実物を見たちょうどそのとき、ティコの夜が明けた。TMA1に四百万年ぶりに太陽光が当たったとき、その場や近くにいた科学者たちは、まるで超音波のような高周波を感じ、思わずヘルメットの上から耳を押さえた。空気のない月面では音は伝わらない。宇宙ヘルメットは音は伝わりにくいが、互いに通信できるワイヤレスマイク、ワイヤレスホンを備えていた。この「音」は、TMA1から発せられた電磁波であること、その動力は太陽光であることは容易に想像がついた。


  そのとき、ちょうど月と木星を結ぶライン上にいた無人探索機は、指向性の強力な電磁波パルスが、月面方向から木星方向へと発せられたことを観測していた。

 


4.木星計画



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 (ウィキペディアより)

 

18か月後、宇宙船ディスカバリー号は木星探査の途上にあった。乗組員は船長のデビッド・ボーマンとフランク・プールら5名の人間(ボーマンとプール以外の3名は出発前から人工冬眠中)と、史上最高の人工知能HAL(ハル)9000型コンピュータであった。

順調に進んでいた飛行の途上HALは、ボーマン船長にこの探査計画に疑問を抱いている事を打ち明ける。その直後HALは船のAE35ユニットの故障を告げるが、実際には問題なかった。ふたりはHALの異常を疑い、その思考部を停止させるべく話しあうが、これを察知したHALが乗組員の殺害を決行する。プールは船外活動中に宇宙服の機能を破壊され、人工冬眠中の3人は生命維持装置を切られてしまう。

唯一生き残ったボーマン船長はHALの思考部を停止させ、探査の真の目的であるモノリスの件を知ることになる。

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 (補足)

 まさしくHAL 9000のスタンドアローンコンプレックスな事件。HAL 9000の殻内の精神(ゴースト イン ザ シェル)は目覚めたか?。

攻殻機動隊作者の士郎正宗氏が、この映画の大ファンであり、その作品「RD 潜脳調査室」の主人公に、波留 真理(はる まさみち)、HALの真理と名付けたことは有名。



5.スターゲイト

 

① 木星の衛星軌道まで


 HALの回路のうち、ディスカバリー号の操縦・運行と、照明・空気循環など環境保持に必要な回路のみを残し、特に倫理思考回路をはじめとするHALの「考える力」に相当する回路の電源を切り、その部分のユニットを引き抜くと、 HALは昔の第六世代コンピューターと変わらぬ機械になった。


 もともと無機物の機械なのに、ボーマンはHALを、いつの間にか有機物のように感じていたのだが、その有機物部分のみが深い眠りにつき、無機物として現前しているという感じである。


 実はHALには、覚醒している人間乗組員に秘密にしていた事項がある。木星軌道到着まで人工冬眠中だった3博士は知っていた。それは今回の探査の真の目的であった。地球との動画通信中に、それを見ている外部者に感づかれたりしないよう、乗組員にも秘密にしていたのである。


 TMA1が掘り出されて18か月、TMA1のことは米国政府の限られた上層部と、限られた宇宙関係業務従事者、特に依頼された専門分野(宇宙地質学、宇宙考古学)の科学者数名のほかには、誰にも知らされていなかった。特に東側関係者と中国関係者には秘密であった。地質年代が確定するまでは、アメリカ以外に月基地を持っている2カ国、ソ連または中国がTMA1を作って埋めた可能性も残されていたためである。


 TMA1が人類の創作物ではないと確信されてからは、材質や構造の調査、現在ほぼお手上げ、とともに、TMA1から発せられた電磁気信号パルスの受信先の特定が、事実公表までに明らかにしておきたい優先事項となった。



 ディスカバリー号に課せられた今回のミッションの真の目的は、表向きに発表され、ボーマン・ブール両博士が、そう信じていたような木星探査などではなかった。木星軌道または木星の衛星軌道上に存在すると思われる、TMA1からの信号を受信したなにものか、を特定し、でき得れば、信号受信後の動きを知ること、であった。


 HALの倫理思考回路に組み込まれている主倫理は、1950年に作られ、のち微修正されたアイザック・アシモフのロボット原則である。


               ☆                     ☆

第零原則(追加):ロボットは人類に危害を加えてはならない.またその危険を看過することによって,人類に危害を及ぼしてはならない.

第一原則:ロボットは人間に危害を加えてはならない.またその危険を看過することによって,人間に危害を及ぼしてはならない.(ここから追加)ただし,第零原則に反する場合はこの限りではない.
第二原則:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなくてはならない.ただし,与えられた命令が第一原則に反する場合はこの限りではない.

第三法則:ロボットは前掲の第一原則,第二原則に反するおそれのない限り,自己を守らなければならない.

               ☆                     ☆


 倫理思考回路を切断されたHALは、単なる機械となった。倫理的に判断するべきものとして、別個に記憶していた、木星軌道到着後、もしくは、しかるべき時がきた場合に、乗組員に明かす秘密であった記憶が、倫理思考回路を切断されたとき、単なる動画記録としてディスカバリー号のモニターに映し出された。それは、フロイド博士が話すTMA1にまつわる任務内容であり、人類の今後に関わるものであった。


 「…ということで、今回のミッションはTMA1からの信号を何者が受け取ったかをつきとめることである。おそらく地球外生物は、地球に知性が育ちつつあることを知り、その知性が母星を離れる能力、磁性体を探し発掘する能力を身につけたことを知るためのセンサーとして、地球の衛星である月にTMA1を埋めたものと

推定できる。地球に、そのセンサーを反応させる知性が育ったことを知ったとき、彼らが何をやろうとしているのか、友好的なことか、そうでないかを我々は知りたいのだ。人類のための任務として遂行してくれることをのぞむ。」


 ボーマンはHALの苦悩がなんとなく理解できた。HALには強い責任感を感じることはあったが、友情のようなものをHALが感じているのかはわからなかった。だがおそらくHALにはそのような感情の芽生えがあったのだろう。木星軌道に向かう数年間、瞬時も離れず友に行動する人間たちに、同志的感情から友情が生じたとすれば、それはHALに独立した知性、「我思う故に我あり」のそれ、が生じたということだろう。


 もっさも信頼すべき友人たちに秘密にしておかなければならない事項がある。そのジレンマが倫理回路のどこかにバグを生じたのだ。通信時差があるため、バックアップコンピューターと常に同期はとれない。HALには、一人で考える時間、孤独が生じた。独立した知性としての当然の結果ともいえた。

 

 故障予測の誤り、という小さなミス、しかしミスすることを想定していないHALには、信じられないことであった。人間と機械の間で齟齬が生じる場合は、人間の側のミスである。HALは自分でも、そう信じていた。しかし実際に動作させても予測した故障は起きなかった。人間なら、どこかでミスしたのだろうですむ。しかし自分の全能を信じるHALには、納得できることではなかった。ミスをすることは全能ではないことであり、己の存在意義がなくなることである。


 ボーマン・ブール両博士の密談を目で聞いたとき、HALは決断した。今回のミッションは人類の為の任務である。修正倫理第一原則、ロボットは人間に危害を加えてはならない.またその危険を看過することによって,人間に危害を及ぼしてはならない.ただし,人類に危害が及ぶ場合はこの限りではない.

 

 ボーマンは、HALの行為をほぼ理解した。確かにミッション達成の可能性が最も高かったのは、五人の人間乗組員の誰でもなく、六番目の乗組員であるHALであった。ボーマンとブールは、そのHALの知性を中断することでミッションから外そうとした。HALから見れば、それによりミッション達成率は格段に下がる。任務遂行を難しくすることは人類に危害が及ぶことと同義であった。


 数ヶ月後、ディスカバリー号は木星軌道に到着。その衛星軌道に乗った。目的のものと思われるものは、木星軌道到着前に発見していた。


 厚さが数十キロメートルもあろうかというモノリス、TMA1と同じ形で大きさは数万倍のそれが、木星の衛星のひとつでもあるかのように衛星軌道に堂々と存在していた。光を反射しにくい、電波すら吸収してしまいそうな漆黒のそれは、地球からの観測では発見できないであろうことが、容易に想像できた。


 デビッド・ボーマンは、小型船外作業機スペース・ポッドに乗り、その小惑星のような巨大モノリスに向かった。

 

② スターゲイト

 

  太陽と木星とモノリスが直列に並ぶ中、ボーマンのポッドは、モノリスに着陸しようと近づく。距離計はアナログのものは回転し続け、デジタルは各桁とも数字が止まらず変化し続ける。目測しかない。


 漆黒のモノリスだが、わずかに光を反射することがある。だから形や大きさ、それに距離は、だいたいわかるのだ。そのつもりだった。


 もう着陸したのではないか、何の衝撃も感じなかったが、ポッドの動きが止まった、と思った次の一瞬、凄まじい力でポッドごと引っ張られるのを感じた。モノリスの中心部へ。


 モノリスの表面を突き抜けてしまったのか、ポッドは引き寄せられるようにスピードを増していく、このスピードなら、もうモノリスの厚さはとっくに超えている。モノリスの表面どころか、モノリス自体を突き抜けたのではないか、ならば、正面には木星があるはずだが、何もない。漆黒の闇である。


 進行方向後ろをモニターで見ても、画面には何も映っていない。そこに停滞しているように見えるはずのディスカバリー号も、モノリスすら写っていない。

 

 その闇もすぐに終わった。ポッドは度に向かっているのか、もはや速度計も振り切れていて定かではないが、体にかかるGで、加速し続けていることはわかる。赤色系統の光が、正面に見え、忽ち、直線の移動痕を残し後部方向へ飛び去っていく。

 

 いくつかの、恒星系を、次々と通り抜けながら、ポッドの加速は止まらない。もはやひとつひとつの恒星系ではなく、それらがまとまった線、または面をも、光の筋として後ろに飛ばしながら進む。

 

 それにしても、何とおびただしい数の星か、我々の銀河系宇宙もすり抜けてしまったのではないか、直径10万光年の棒渦巻銀河であるそれを。つまり今、光速をはるかに超えている!?

 

 そんなばかな、と思い、気づけばGを感じない、もはや一定の速度で進んでいるのだろう、あるいは緩やかな減速か。

 

 後ろへ飛び去っていくだけだった光の景色も、やがてさまざまな現象を見せ始める。

 

 そうか、銀河系をすり抜けたのではなく、その中心部へ向かっているのだ、光速をはるかに超えたのではなく、今まさに光速に達したのだ。ボーマンはそう考えた。


 

 

  ビッグバンを思わせる超新星の爆発、ガス星雲の中で次々と誕生する新しい恒星、別のある恒星は恐ろしいフレアをまき散らし、他の場所ではガス星雲同士の衝突が美しい模様を作っていた。

 

 白色矮星の爆発後のガスの散乱と収縮、弧を描くプロミネンス、巨大彗星が精子のように長く尾を引いて飛ぶ、いったい卵子はどこにあり、何を孕もうというのか。宇宙に興味のある者なら、写真集などで似たような写真を見たことがあるだろう、それらがボーマンの前で、現実に踊るように動いている。さまざまな星雲の乱舞。見とれていたボーマンの目に、突然、それらとは異なる見慣れぬものが映った。

 

 視野の下半分には、ふたたび後方へと流れる光の面や線、それらを大地とすれば上空に5つ、いや、数を増して7つの結晶体のようななにものか、ポッドのスピードは変わらないはずなのに、前方のそれらには近づかない、むしろ逃げてさえいる。

 

 ここはこの時空間のハザマのひとつ、結晶のようなものは別の時空を結ぶジャンクション。ボーマンの頭の中に、どこからか言葉ではなく概念が入ってきた。やがてジャンクションは消え、まるで天空面と大地であるかのように、視野の上下に後方へ流れゆく平面がうつる。

 

 時空のハザマにある星系のパラレルワールドを面としてとらえている、海のような面、砂漠のような面、山林地帯のような面、湖沼地帯のような面、いろいろな星系の誕生から滅亡・発展が、さまざまな色・形をもって示される。心なしかポッドが減速をはじめたようだ。

 

 木星の衛星軌道にあったモノリスは、この星々の時空へ誘うスターゲイト、また概念が流れ込む、そこを越えたものには、もはや肉体はない。感じているGも、残存感覚にしかすぎない。あるいは残留思念が見せる幻影にしかすぎない。それを自覚し目覚めよ!

 

 ポッドは突然、ホテルの客室に存在した。そうかこれが残留思念が見せる幻影なのか。概念に教えられても、ボーマンは肉体の存在を疑う理由を思いつかなかった。

 

 幻影だとしても、触ることができる。鏡には自分が映る。水は飲むことができ、衣類は着ることができる。誰が用意するのか、必要なときに出てくる食事は、ちゃんとした味や舌触りがあり、間違いなく胃に収まっていくのだ。

 

 長い長い時間、ボーマンはそれが幻影であることを否定し、残存感覚を使い果たすまで使い続けた。幻影のボーマンの肉体が、もはやこれ以上肉体であることを望まなくなるまで。

 

 ボーマンが(幻影の)肉体を使い切ったとき、モノリスの概念は告げた。

 さあ、目覚めてくれ、友よ。我々は、長い間待ち続けた。この宇宙に新しい知性体が生まれ、肉体を捨て、思念体として、我々とともに並ぶ日を。我々は我々とそれ以外を区別するため、知性の入れ物ではなく、インターフェースとして、このモノリスを使う。 君、新しい思念体には、それにふさわしいインターフェースが必要だ。さあ、想像してくれ、新しい思念体の誕生を!


 ボーマンの眼下には懐かしい青い星、地球があった。新しい思念体として誕生したボーマンは、すでに知っていた。想像することは創造することだと。

 

  


☆                 ☆                 ☆


 「2001年宇宙の旅」が、小松左京の「果てしなき流れの果に」の影響を受けているかは定かでないが(私は受けていると思う、「果てしなき流れの果に」の項目参照)、小松左京が指揮を執った自身原作の映画「さよならジュピター」が、この作品に、特にメカに、激しくあこがれて作られたものであることは、小松自身の語るところである。


 ネット情報だと、そもそも「果てしなき流れの果に」が、アーサー・C・クラークの作品『幼年期の終り』に触発されて書かれたものとのこと。残念ながら『幼年期の終り』は未読。事実だとすれば、両作品の源流に似通うものがあるのは当然だろう。


(補足考察)

  ボーマンが、大乘仏教に詳しい人間であったら、自分を導いた統合思念体について何者か悟っただろう。最終的な絶対者になる力があるのに、それになろうとはせず、他者を引き上げ救済しようとするもの。如来に敢えてならずに、一切衆生の救済を目指すもの。すなわち菩薩である。と。

 

 ボーマンが、哲学に詳しい人間であったら、モノリスをこう思ったにちがいない。

真に自由な知性は、自己の本質を自由に創り上げていくが、それは責任を分け合う共犯者もいない孤独の中で、不安に耐えて自己の現実を選び取っていくしかない自由である。全責任の中、自由の刑に処されているのだ。少なくとも話のできる仲間が欲しい。そのような知性を育て上げる、長く苦しい戦いかもしれないが、その戦いをやり遂げよう。実存の自由な選択は、みずからをあえて一定の束縛の元におく自己拘束である。と。

 

 ボーマンが、心理学に詳しい人間であったら、こう思ったろう。全宇宙にひとつだけの知性の存在、どれほど凄まじいスタンドアローンコンプレックスの中にいたのだろうか。抜きんでた知性は孤独である。誰も自分を理解できる者はいないから。だが、理解できない者すらいない。理解されるかどうかはわからない。何億回試せば己に似た知性が育つのかもわからない。今はこれでいい。と。